当院で,外科部長を務めていた医師が,突然退職して,当院のすぐ近くで,外科専門のクリニックを開設しました。当院の患者の相当数が,そのクリニックに通院するようになり,当院は経営的にかなりダメージを受けました。退職した外科部長に対して,何らかの法的手段をとることはできないでしょうか。

  勤務医も労働者ですので,本人の意思で自由に病院を退職することができますが,退職後に近隣で開業されてしまうと病院の経営に影響が出るおそれがあるため,このような事態を防止するには,予め就業規則または雇用契約書に退職後の競業避止義務を定めておく必要があり,これによって退職者に対する損害賠償請求や競業の差し止め請求を行うことができます。
但し,退職者の職業選択の自由を制約することになるため,競業避止義務の内容は合理的なものでなければなりません。
具体的には,競業が禁止される①職種,②地域,③期間等が合理的な範囲でなければ,競業避止義務規定が公序良俗違反(民法90条)として無効となる可能性があります。特に,医師の場合,医師業務自体を禁止することは不利益が余りに大きく合理的とは言えないと考えるべきでしょう。
なお,競業避止義務の実効性を高めるためには,退職時に個別の誓約書を提出させ,その中に,競業を禁止する期間や地域等を具体的に記載しておくことが望ましいです。