弁護士中山の「私の一冊」

料理に身を尽くす (2010.6.7)

高田 郁(たかだ かおる)みをつくし料理帖シリーズ
「八朔の雪」「花散らしの雨」「想い雲」 ハルキ文庫

 

  ほとんど毎日お酒を飲みます。飲まないのは体が降参する日が年に数日,飲めない日です。二日酔いをしても朝からジムに行って汗を流せば,大抵昼くらいには人並みになって,夕方には「とりあえずビール」となります。二日酔いするほど過ぎた日には愚行が多く「あの一杯で止めておけばよかった」「また馬鹿なことをやってしまった」とか「たら,れば」の後悔をします。「泥酔の翌朝における白々しい悔恨は・・・夜においての恥ずかしいこと,醜態を極めたこと,みさげはてたること,野卑と愚劣の何物でもないような記憶の再現は,砒毒の様な激烈さで骨の髄まで紫色に染色する」(荻原朔太郎)ご同輩もいるようです。

  さておき,食事をしながら飲むのは,ビール,日本酒,焼酎,ワイン(これらを食中酒といいます),何でも行けます。食後には古いシングルモルトのスコッチウィスキーをちっちゃなストレートグラスにすこっちあれば満足です。ちなみにヨーロッパ貴族の食後酒といえば,スコットランドで作られるシングルモルトのスコッチウィスキー(マッカラン,山崎などがこれ)です。一般にウィスキーといわれているのは数種のモルト及びグレーンが混合されたブレンデットウィスキー(ジョニーウォーカー,響などがこれ)のことです。話しはずれますが,マッカランがあれほど芳醇にフルーティーな香りがするのは,仕込む(寝かせる)樽に使い込まれたシェリー酒の樽が使用されていたからといわれています。

  ところで,悪天候等により,シングルモルトの原材料となる品種麦が凶作で確保できないことがありました。そうなればその年はその特定のモルトウィスキーは仕込むことができない→飲めないことになるわけです。そこで酒飲みは考えました。こうして複数のモルトとグレーンをブレンドすることにより安定的な旨さを作ることに成功したのです。ちなみにブレンドされるモルトとグレーンのレシピは企業秘密で数十種類にも及ぶそうです。葡萄を蒸留したブランデーも同じようにシングルモルトに代わる食後酒として考案されたものでした。 先の食中酒はそれなりにどんな料理にも合います。もちろん,多くはないけれどぴったり来たり来なかったりの肴もありますが。例えば,ワインに湯豆腐が合わないとか,ホタルイカの沖漬け,焼味噌とかは日本酒にぴったり合いますよね。日本酒はその日の気分で冷やか熱燗か決まります。

  江戸時代の酒といえば,冷やの濁り酒(どぶろく)でした。庶民にまで清酒が広まるのは江戸中期に至ってのことで,清酒といえば熱燗です。酒を飲む処は料理屋になりますが,蕎麦屋が主流でまさに現代の居酒屋でした。現在でも夜になると肴が充実する名物蕎麦屋があるのはこの名残なのです。今も昔も酒は肴次第に変わりありません。

  さて,本作品の紹介です。著者は中央大学法学部出身の女性で,私と同じ歳。97年にコミック雑誌の原作者としてデビュー,小説家として認められたのは,この「みをつくしシリーズ第2巻花散らしの雨」でのことです。

  主人公は18歳の女性料理人澪(みを),舞台は江戸神田御台所町,連作料理時代小説です。澪は幼いとき,幼馴染みの野江の相を観に来た著名な易者水原東西から,「雲外蒼天」の相であることを告げられます。曰く「可哀相やがお前はんの人生には苦労が絶えんやろう。これから先,艱難辛苦が降り注ぐ。その運命は避けられん。けんど,その苦労に耐えて精進を重ねれば,必ずや真っ青な空を望むことができる。他の誰も拝めんほど澄んだ綺麗な空を。ええか,よう覚えときや」。まさにこの易者が予言したごときの物語が展開することになります。まもなく,故郷大阪淀川の水害で両親を亡くし,途方に暮れているところを料亭「天満一兆庵」のご寮さん(奉公先の女将さんのことを大阪ではこう呼ぶそうです)に拾われます。澪は女衆として奉公に上がり,一から調理の腕を仕込まれ10数年。澪の舌は特別でした。天満一兆庵は江戸に支店を出し若旦那が仕切りますが,大阪本店が近隣からのもらい火により焼失してしまいます。大旦那,ご寮さん,澪の3人は江戸の若旦那のもとを頼るのですが,既に江戸店は人手にわたっており,吉原で遊び惚けて店を潰したとされる若旦那は行方不明に。壁と大門に囲われていた遊郭吉原での粋な遊び方,そのしきたりなどには興味深いものがあります。常に性病に悩まされていた遊女たちの平均寿命は22歳足らず,太夫(たゆう),花魁(おいらん)などの階級がありました。3人は必死に若旦那を捜しますが,失意の中で大旦那は衰弱死。澪は病弱のご寮さんと長屋暮らしで若旦那を捜す生活に。澪は生活のため蕎麦屋「つる屋」を手伝いますが,その腕を見込まれ,蕎麦屋を料理屋に変えて店を任されます。江戸の人にはなじみの薄い上方料理を江戸向きにアレンジして腕を振るい,次第に澪の料理は評判となり,栄えある料理番付に格付けされるまでになります。そんなある日,彼女の腕を妬んだ料理番付横綱の名料理屋「登龍楼」が澪の料理を模倣するなど非道な妨害を仕掛けてきます。下町の長屋の隣人,澪が恋心を寄せる料理に詳しい謎の侍小松原,吉原にも顔が利く名医源斉,常連客の流行戯作者清右衛門などの人物が人情深い人間模様を織りなします。最後に,件の野江は,先の易者に天下取りの「旭日昇天」の相と言われていましたが,水害以降行方知れずになっていました。ところが,澪はそんな野江の消息を意外なところで知ることになります。

  一気に読みたくなるシリーズ3冊です。私はいつものようにベットで睡眠薬代わりに第1巻の「八朔の雪」から始めました。だのに朝まで眠れず,2日間で3巻読まされてしまいました。シリーズは3巻で完結なのか明らかではありませんが,内容的に4巻5巻と続きそうな気配です。それを熱望するのが私だけではないことは,読んでいただければわかるかと思います。巻末付録に澪の創作料理のレシピがあります。どうぞ3冊そろえてから美味しくお楽しみください(了)。

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「高田郁 八朔の雪」「花散らしの雨」「想い雲」 (2010.6.7)

(3) 「今」とは,一体いつのことなんだろう,なんて考えたことありますか。
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(2) 読書して涙しますか?
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