賭博によって生じた借金は、法的に支払う義務はありません。ただし、既に支払ってしまった分は、返してもらうことができません。

  私の兄は暴力団員との賭博で1000万円負けてしまい、500万円は支払ったものの、残500万円について借用書を書かされ、私はその保証人にされてしまいました。暴力団員から正式な借用書がある以上、支払義務があると言われているのですが応じなければなりませんか?

  賭博は偶然の事情によって、財物の得喪を決することに本質があり、国民がこのような行為に熱中することがあれば、射幸心を煽り、健全な労働意欲・経済倫理を麻痺させてしまうことから、刑法は犯罪として禁止し、違反には罰則を設けています(刑法第185条)。

  民法上も、公の秩序・善良な風俗に反する行為は無効であることを明言しており(民法第90条)、賭博はもちろんこれにあたりますので、賭博によって債務を発生させることは無効となり、その結果、債務は発生しないことになります。

  従って、債務は存在しませんから、お兄さんはもちろんのこと、保証人であるあなたも支払義務はありません。このことは、ちゃんとした借用書があるかどうかで変わりはありません。

  無効なものを書面化したところで突然有効となることはないのです。

  また、無効である行為の実現に法は何らの手助けしませんから、仮に、相手方から支払を求める裁判を起こされたとしても、当該債務が賭博により発生したことが立証できれば支払う必要はないのです。

  兄は無効な債務に基づいて、既に500万円支払っていることになりますが、返還を求めることが可能ですか?

  それは出来ません。これまでの説明により、お兄さんは債務がないのに支払をしたことになりますから、本来、不当利得として返還を求めることができるはずです。

  しかし、この返還が認められるとすると、自ら法の理念に反する反社会的・反道徳的な行為をしておきながら、法の保護を受ける結果となり、法律の目的に反することになるので、このような不当利得にあっては返還請求を禁止しているのです(民法第708条)。